インバータモータの信頼性を高める適切な購入仕様

モータを新設・更新する際に注意すべき点

メカニカルコンポーネンツ部シール技術課 小西 悠太(Yuta Konishi)

はじめに

家庭用エアコンや蛍光灯の省エネ対策にインバータが使用されるようになって久しいですが、今日、その技術は多くの産業用モータにも導入されています。電気自動車の駆動用モータや製紙・製鉄、化学プラントなど、インバータで運転する機械が増えています。特に工場ラインでは、長い間活躍してきた「直流モータ」から、整流子やブラシのメンテナンスが不要になる「交流モータ」への切り替えも進んでいます。

回転子にカーボンブラシと整流子を介し通電させる「直流モータ」に対し、誘導モータや同期モータなどの「交流モータ」は、その機構が不要なことから、主要な消耗部品は、ベアリング(軸受)や潤滑になりました。

インバータモータの軸電圧

EDM電流
EDM電流

しかしながら、「交流モータ」がインバータで運転されるときには、モータの軸に電圧変動を発生させます。これがベアリングを介してモータの筐体(きょうたい)へアースされるため、ベアリングや潤滑が電流によって損傷・劣化します。

電流は、「電食」として知られるフルーティングや微小クレータに加え、潤滑にも影響を及ぼします。グリースなど潤滑は、急峻な電流(EDM電流・図)により軸受を溶融させ、潤滑中の鉄粉濃度が上昇します。

ベアリングの異物は、必ずしもモータ外部からの流入に限られず、インバータ駆動されたモータは、内部で異物を生成します。

そのため、交流モータを導入してからブラシのメンテナンスが不要になったにも関わらず、軸受電流対策でまたモータ外部へカーボンブラシを取付ける必要が出てきます。そのブラシの定期的なメンテナンスをしたり、カーボン摩耗粉や異物により、軸と電気的接点が取れていなかったりすることで、ベアリングを早期故障させているケースが、市場で非常に多く発生しています。

ベアリングの寿命

ベアリングは、適正に組込、芯だし、使用、給脂(給油)を実施していても、内輪と外輪の軌道面や転動体に、うろこ状の剥離が発生します。これはフレーキングとも呼ばれ、剥離が生じるまでの総回転数が、ベアリングの寿命(疲れ寿命)とされています。

「摩耗」や「なし地」など、剥離(フレーキング)以外のベアリング損傷は、何らかの原因が"ベアリングを使用する側"にあるとされています。この場合、設計上規定された交換頻度よりも短い期間でのベアリング交換を繰り返すことになり、ベアリングが本来の寿命を果たしていないことになります。何らかの改善策を実施しなければ、本質的な解決にはなりません。

潤滑グリースの黒色化

インバータモータの信頼性を高める

インバータモータの軸受電流による弊害は、電食として"認識されている"、「フルーティング」だけではありません。ベアリング内部で生成された異物により、ベアリングから早期に異音が発生したり、潤滑が黒色化したり、摩耗など異物が原因の故障が発生することもあります。

モータの寿命、ひいてはモータとカップリングなどで連結する減速機やポンプなど、機械側のベアリングを保護するために、インバータ運転されるモータはその出力[kW]などに関係なく、軸をイージス® アースリングでアースし、ベアリングを守る必要があります。

イージス® アースリングは、モータの筐体へ取付けて軸受電流をアースする製品です。軸の全周に特殊導電性マイクロファイバが配置された、メンテナンスフリーの軸アースリングで、取り外さない限りイージス®リング自体のメンテナンスは必要ありません。カーボンブラシのように1台1台、定期的に摩耗具合を点検したり交換したりなどが不要です。

国内外のモータメーカは、モータ購入時にイージス®リングを指定することで、イージス®リング付きのモータを出荷できる場合があります。電動機を新設・更新する場合で、インバータ制御をするモータはすべて、必ず購入仕様書などへ、「イージス®リング、または同等のメンテナンスフリーの軸アースを取付ける」などと、軸電圧対策を設定することが重要です。

特に耐圧防爆モータやギアモータなど、後から軸アースを取付けられないインバータモータは、導入する時点で、モータメーカにイージス®リングを取付けられるかご相談されることを推奨します。

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担当者コメント

メカニカルコンポーネンツ部シール技術課 小西 悠太(Yuta Konishi)

当社は、これまで国内の製紙・製鉄・化学プラントなど、数多くのお客様で軸受電流対策をご提案し、採用頂いてきた実績があります。
軸受電流は洗濯板状のフルーティング痕に限らず潤滑の劣化も招き、軸受損傷を早めます。外部からの異物はシールで、軸受電流による軸受内での潤滑生成は、イージス®リングで、適切に対処する必要があります。
是非、お気軽にご相談ください。

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