オイルシールをベアリングアイソレータに置換え、設備の信頼性を高める
メカニカルコンポーネンツ部シール技術課 小西 悠太(Yuta Konishi)
1.オイルシール
1920年代に動物の生皮を使用したラジアルシールが考案されて、その後、生皮から合成ゴムに置換えられ、ガータースプリングを追加するなどして、シール性の改良や、素材・製造法などの進化を経て、今や自動車や農業機械、産業用機械にとって、オイルシール(リップシール)は無くてはならないものとなりました。
石油化学プラントや、製紙パルプ工場など、さまざまな工場にある、ポンプや減速機などの多くの回転機械で使われ、JIS(JIS B2402)やISO(ISO6194)で規格化されており、比較的、安価で入手性が良いシールです。
シールとして、優れた性格がある半面、オイルシールは回転軸にシールリップを押し当てるため、必ず寿命を迎え、定期的な点検や交換、軸のリップ摺動摩耗の修繕など、課題があるのも事実です。これらの課題を考えながら、改善する方法をご紹介します。

オイルシールの課題
短い寿命
オイルシールの寿命は、シールの材質や潤滑油種、シール部温度に大きく依存し一概には言えませんが、標準的な目安としては、3,000時間程度といったデータがあります。(参考:CIC 7810-192 Exhibit IV Percent Failure vs. Hour To Leakage)3,000時間は125日ですが、24時間365日運転している機械にとって、1年間は8,760時間です。年3回程度のシール交換の計画が必要になります。

トルクによる電力消費
オイルシールは軸にシールリップを圧接させるため、回転数や軸径、また表面の状態により、無視できない電力損失があります。一般的なシングルリップは平均で、147 [W]程度の電力消費があるというデータもあります。(参考:Labyrinth bearing seals can offer cost advantage (PLANT ENGINEERING STAFF JULY 30, 2004) By David Orlowski, Inpro/Seal Co., Rock Island, IL)事務所の蛍光灯を数本消すよりも大きいことは明白です。
塵芥など異物により損傷する
オイルシールが使われる設備機械は、雨水や潤滑油に加え、粉体・砂塵・スケールなどが飛来することもあります。軸と摺動するリップシールは異物がリップに飛来すると著しく摩耗が進行します。油に0.002%の水が入ると軸受故障までの時間が48%短くなると言われます。(参考:The Effect of Water in Lubricating Oil on Bearing Fatigue Life" Cantley.R.E. ASLE Transactions, 20(3), pp.224-248, 1977)これは、だいたい1リットルの容器に入った油に1滴の水が入るほどのイメージです。
機械を痛めながらシールする
ゴムでできているオイルシールですが、リップの摺動により軸にも摩耗が発生、シールを新しいものに変えても漏れることがあります。軸が摩耗すると設備停止し、機械の分解・肉盛・研磨・再組立と大変な生産停止損失と手間と修繕費用がかかります。漏れたときに失われる信頼
いつ起こるかわからない油漏れの発生は、軸受や歯車への弊害に限りません。構外へ油が流れ出てしまうと、企業としてのコンプライアンスの問題にとどまらず、水濁法・河川法・PRTR制度など、さまざまな規制の対象になる恐れもあります。2.ベアリングアイソレータ

リップシールの多くの弱点を克服することができるのが、Inpro/Seal社のベアリングアイソレータです。
1977年から同社が開発進化させてきたベアリングアイソレータは、石油精製プラント、化学工場、パルプ製紙工場、製鉄所、食品工場などのあらゆる回転機で、長期にメンテナンスフリーでシール性を確保し、ベアリングのL10寿命を達成させます。
典型的なアプリケーションモータ、ポンプ、ギアボックス、蒸気タービン、プランマブロックなど
特徴
個々の機械仕様や寸法で最適のシールを都度設計されるため、IP66相当の高いシール性を誇り、潤滑の漏れと異物の浸入を同時に防ぎます。非接触シールのため、摩擦や摩耗がないため、長寿命・メンテナンスフリーで、トルク損失がなく、電力損失を減らすこともできるため、省エネが一段と求められる昨今では最適なシールです。
また、一般的なラビリンスシールにおける弱点である、低速・停止時のシール性も、VBX®リングにより、停止低速時の湿気浸入を防ぎます。停止から高速(60m/s程度)まで、お使い頂けます。
Inpro/Seal ベアリングアイソレータ
3.費用対効果を検証する

Inpro/Seal ベアリングアイソレータは、オイルシールより単価が高い場合が一般ですが、シールやオイルレベルなどの定期的な巡回点検や交換が不要、電力損失がない、機械の損傷がない、油漏れによる軸受・歯車の損傷や法規制違反などのリスクが下がる、など多くのメリットがあり、損益分岐のあとまで考慮すると非常に経済的です。
オイルシールの振る舞いは、潤滑状態や軸表面粗さ、温度、圧力など、多くの要因で交換寿命が大きく変わり正確な試算はできませんが、条件によっては、1年程度で損益分岐を超えることが出来る場合があります。