Vacrodur

「機械技術」2021年8月号
特集『新たな視点を提供する輸入工作機械/工具・機器の最新動向』に記事が掲載されました。

モーションドライブ部 スピンドル二課 宮崎 陽介(Yosuke Miyazaki)

開発の背景

工作機械全体における故障要因を分析してみると、主軸スピンドル・ツールシステムが全体の30%に渡って損傷している傾向が判明している。また、主軸スピンドルの損傷要因は、実に約60%は、衝突や過負荷に拠るものであることが統計上明らかになっている。

 実際に、主軸スピンドルへの外部荷重を支持するのはスピンドル軸受であり、スピンドル軸受は非常に高速で高精度な運転状態を維持すると同時に、長時間に渡って加工負荷を伝達しなければならないため、最も負荷のかかる要素部品の一つであると言える。
工作機械のダウンタイムの大部分が主軸スピンドルの故障によるものであり、特に衝突や外部から検知されない連続的な過負荷によるものである。

これまでスピンドル軸受の連続的な負荷や限界負荷を常時監視するような装置が存在しなかったことが課題の一つであり、Schaeffler(シェフラー社)は、工作機械主軸用ベアリングの状態監視システム『Spindle Sense(スピンドルセンス)』を開発した。また極めて厳しい条件下においても運転信頼性を向上させ、スピンドルの高性能化と長寿命化の実現を目的とする、高機能材料を採用した『Vacrodur(バクロドール)ベアリング』を開発した。

Spindle Sense(スピンドルセンス) / 変位測定によるスピンドル状態モニタリング

1.検出原理

同システムは、工作機械の主軸用ベアリング前方に設置したセンサーリングから得た情報を元に、主軸ベアリングの変位をマイクロメートル単位の正確さで監視する。連続的な過負荷や衝突による破損からの保護が可能になり、主軸の破損などの危機的状況の過負荷を2ms以内に検知できる。

センサーリングは、高い分解能で5つの空間方向(並進3方向と回転2方向)から、負荷のかかった主軸の変位を直接測定する。センサーリングは、転動体で測定されたたわみが、主軸や機械の種類ごとに個別に設定された特定のしきい値を超えた場合、機械の制御システムにアラーム信号を伝達する。

尚、内蔵されている変位センサーは、自社開発された渦電流式変位センサーを検出方式に採用している。センサーリング内部に、センサーがラジアル方向とアキシアル方向に各3個ずつ配置されている。サンプリングレートは1 kHz、計測範囲は±100μmの設定となっている。

X-Life 高速スピンドル軸受の概要
Spindle Senseセンサーユニット構造

2.システム構成

主軸スピンドルにおける荷重分布において最も影響を受けやすい最前列ベアリングの前側にスピンドルセンスは配置される。この場合、荷重点までのオーバーハング量が長くなってしまうため、軸先端における剛性を維持するためには、センサーリングは可能な限りコンパクトに設計する必要がある。
センサー自体を小型化することに加えて、ケーブルは柔軟性を有しており、曲げ半径を極力小さくできる。センサーリングは樹脂モールディングにより密閉性を有しており、クーラントや切削油に対する検証のため、耐久テストがシェフラー社内で実施されている。
尚、保護等級はIP65となっている。

スピンドルセンスの運転にあたっては、直流24V安定化電源を供給すると共に、主軸回転数のデジタルデータを入力する必要がある。しきい値の設定は、シェフラー社が提供する専用ソフトウェアを運用することにより可能であり、センサーリングとの通信にはCAN通信が適用される。

センサーしきい値を設定するにあたり必要とされるベアリング軌道面圧やスピン転がり比、ボールエクスカーションといった主軸運転に関するベアリングのパラメータは、シェフラー社が提供する軸受支援プログラム BEARINX(ベアリンクス)により設定される。特定のしきい値を超えた場合、機械の制御システムにアラーム信号がデジタル出力される。

X-Life 高速スピンドル軸受の概要
Spindle Senseシステム構成

Vacrodur(バクロドール)特殊鋼採用高速スピンドル軸受

X-Life VCMシリーズは、転動体にセラミックボール、さらに内外輪に新たに開発した高機能材料 Vacrodur(バクロドール)を採用している。この材料は高負荷容量で、耐摩耗性および耐熱性が極めて高いという特長を備えている。

HRC 65を超える表面硬さにより、異物や金属粉の侵入により潤滑剤が汚染された場合における初期損傷を抑制する。特に、不充分な潤滑状態や極端な汚染状態などの異常な潤滑条件下で最大限の効果を発揮する。潤滑剤へ無機物の微粒子を意図的に混入させた汚染環境において実証試験を行った結果、従来材料と比較して運転寿命がおよそ24倍になったことが確認されている。また、良好な潤滑条件下における実証テストにおいては、転がり疲労寿命が従来材料と比較して13倍以上であったことが確認されている。更に、熱安定性にも優れており、400℃もの高温運転環境下においても、安定した材料特性を発揮する。また、計算上の軌道面圧許容値は2700MPaであり、従来の軸受鋼の許容値 2000MPaに対して35%耐久限度が向上している。

機械的性質の向上や長寿命、信頼性向上の実現により、初期投資ではなく、トータルコストを低減できる生産性の高さが大きな特徴であり、軸受の運転寿命を最大限に延長することが可能となった。

以上のことから、Vacrodurベアリングは極めて厳しい運転状況下でもスピンドルの高性能化と運転信頼性向上を実現させる手段になるといえる。

Vacrodur高速スピンドル軸受
Vacrodur高速スピンドル軸受

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