1.はじめに

Bearing_VCM
VCMシリーズ<写真提供 SCHAEFFLER>

転がり軸受の性能向上は目覚ましく、特にSCHAEFFLER(シェフラー)社が、独自の粉末冶金技術によって開発した新素材・Vacrodur(バクロドール)を軸受内輪外輪に採用し、さらに軸受内部の摩擦性能を最適化させたX-lifeを組み合わせたVCMシリーズは、軸受の機械的性質、高速高負荷容量、耐摩耗性を飛躍的に向上させました。

バクロドールは、HRC65という高硬度かつ優れた靭性を両立させた点に大きな特徴があり、内外輪に極めて高い許容面圧を誇る材料を適用させたことと、内部構造を最適化コンセプトX-lifeとの組合せで、嵌めあいや高速回転、また内外輪の温度差に対するロバスト性を向上させ、生産性向上及び総保有コスト(TCO)の削減を実現させました。

許容回転数の制限からオイル潤滑を採用していたアプリケーションでも、VCMシリーズの高速性能からグリース潤滑を採用するケースも増えています。

一般軸受鋼 Vacrodur®
ロックウェル硬さ HRC60 HRC65
許容面圧 2,000 [MPa] 2,700 [MPa]
耐熱性能 150 [℃] > 400 [℃]
動定格荷重 100 % 240 %
静定格荷重 100 % 140 %
耐摩耗性 100 % 2,400 %
寿命(混合潤滑下) 100 % 2,500 %
寿命(境界潤滑下) 100 % 1,300 %

2.潤滑方式変更とシール性の変化

オイルミストなどの潤滑に比べてグリース潤滑は、大規模な潤滑装置や機構が不要となり、機械自体のコストダウンに大きく寄与します。 一方で、オイルエア潤滑など、潤滑油を圧送する潤滑システムは、軸受のある機械内圧を高め、エアーパージを設けるのと同じように、その圧力がシール性能にも大きく貢献しています。

これがグリース潤滑に変更されると、潤滑システムによる内圧上昇がなくなり、これまでのシール構造では、切削液や異物などが入りやすくなる懸念があります。切削液や異物侵入による工作機械故障は、生産性に直結するため、軸受選定と同じように軸受をまもる手段の検討もとても重要です。

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3.ラビリンスシールの性能に関係する要素

ラビリンスシールはその名の通り、シール内部を迷宮のような形状にすることで、外来異物などを、到達しづらくしたり、排出したりする機構を持つ、非接触シールです。

重力
ラビリンスシールの内部に侵入した異物を排出する上で利用できる力に重力があります。重力Fgは常に作用する力であり、異物質量mに重力加速度gを掛けたものです。質量が小さい粉やガスなどでは重力に期待することは難しいですが、切削液などのある程度質量をもった物体を排出する上では重力は積極的に利用したい力です。

Fg = m∙g

遠心力
運転中においては、遠心力Fcが大きく寄与します。Fcは、異物の質量m、回転半径rと、角速度ωの2乗に比例します。 角速度は単位時間あたりの回転角であり、回転数に比例します。つまり、遠心力は回転数の2乗に比例するため、高速回転軸はラビリンスシールにとって、強力な援軍と言えます。

Fc = m∙r∙ω2

圧力差(オイルエア潤滑やエアーパージなどによる内圧)
ラビリンスシールで重力・遠心力に加え、シール性を高めるために活用できる力に圧力差があげられます。軸受ハウジング内やラビリンスシール内部にエアを注入し、内圧が上昇することで、軸封部からの侵入を妨げると同時に、内部へ侵入した異物を排出します。

オイルエアなどの内圧を上昇させる潤滑システムから、グリース潤滑に変更した時、この圧力差がシール性低下に関係し影響を及ぼす可能性があります。 重力も遠心力もある程度、運転中や軸の向きが変わらない場合や、質量がある侵入異物には有効ですが、機械が停止した際や流体速度の速い異物の侵入に対し、内圧上昇がなくなった場合は、現行ラビリンスシールからの侵入と排出の性能が低下する可能性があります。

4.生産効率最適化におけるシールの役割

Bearing_Isolator

上述3つの力を活用しながら、異物がラビリンスシール内部で進行しづらくする要素は他にも、液体が狭いラビリンスを通過するときの粘性摩擦抵抗や、ラビリンスの形状によって発生する拡大縮小の圧力損失なども考慮に入れる必要があります。 さらに、ラビリンスシールの選定には、機械への組込み容易性や耐腐食性なども考慮する必要があります。

また、グリース封入シール付ベアリングを採用することにより、さらなるシール性およびグリース寿命の改善を図ることも可能です。

当社では、ベアリングに加え、世界のユニークで性能の高いシールも幅広く扱っており、これまでの実績から、お客様の要求仕様にあわせ、シール提案することもできます。 ベアリングの技術進歩にあわせ、機械全体としてベアリングの性能や寿命を最大限引き出すことで、生産効率やアップタイムの最大化が実現できます。是非、ベアリング保護についても、お気軽にご相談ください。

担当者コメント

メカニカルコンポーネンツ部シール技術課 小西 悠太(Yuta Konishi)

当社は70年にわたり、軸受やシールをはじめとした、海外の高精度・ユニークな製品で、お客様へソリューションをご提案してきました。ベアリング本来の寿命は、極めて長いはずなのに、早期に異音や振動が上がることがある場合、是非、当社までお気軽にご相談ください。

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