「機械技術」2021年8月号
特集『新たな視点を提供する輸入工作機械/工具・機器の最新動向』に記事が掲載されました。

スピンドル技術部 制御課 小林 周平(Shuhei Kobayashi)

はじめに

加工の高度化が進む中で、工具(以下、ツール)やそれを駆動させるための主軸(同、スピンドル)、ひいてはその主軸を制御する加工機械(同、マシン)に求められる性能・機能も深化が進んでいる。このような高度・高機能なスピンドル、あるいはマシンを不測のダウンタイムで長期停止させてしまうことは、可能な限り抑止したい事象であるといえる。

本稿では、スピンドルの監視に最適化された演算ユニットを一体化し、かつその演算結果を適切なかたちでオペレータに提供するソフトウェアとも連携が図られた、スピンドル状態監視技術の最新動向を紹介する。

保全

故障等のダウンタイムに対する処置は、事後対策(既に発生してしまった不測事態への対処)と防止(起こりうることを予測し事前に施す対策)とに大別することができる。近年は特に、後者の導入需要が高まっている。予防メンテナンス等によって設備への影響を予測可能な分量に定める、あるいは「管理下におく」ことそのものの方が、突発ダウンよりもはるかにリソース・コストメリットが高いからである。

後者の「防止」処置は、そのコンセプトや定常・非定常の違いに応じて、さらに以下のように細分化できる。

1.未然防止

故障等のトラブルにつながるリスクを体系的に調査・リスティングし、それぞれのリスクに対して必要な措置を講じておくことで、そのリスク起因のトラブルを未然に防ぐ手法。

2.予防保全

要素部品の仕様やエンジニアに蓄積された経験を基に部品寿命値を定量化し、その値に到達しだい故障の有無を問わず当該部品を交換する保全手法。メンテナンスコストを一定量にする、「定常メンテナンス」の類に属する手法といえる。

3.予知保全

破壊的なトラブルのうち、進行性の異常に端を発するものに関しては、振動や温度などの物理的なパラメータとしてその予兆をアウトプットしているケースがある。そのような要警戒シグナルを的確にとらえることで、先に紹介した2手法では対応しきれない突発トラブルを阻止する「非定常メンテナンス」に属する手法である。
必要十分な保全を応変に施せることから、近年特に重要視されている。

スピンドルモニタリングシステムにおける実装例

以下、イタリアに本拠を置くBalance Systems社のスピンドルモニタリングシステムB-Safe X(ビーセーフ・エックス)における予防保全・予知保全システム実装の最新動向を紹介していく。

スピンドルモニタリングシステム_B-Safe_X
スピンドルモニタリングシステム「B-Safe X(ビーセーフ・エックス)」

1.予防保全

B-Safe XにはXYZ直交系3軸加速度センサー、高周波対応単軸式ピエゾセンサー、ならびに温度センサーが内蔵されている。これらは従前より設備の常時監視と即時異常検知に利用されてきたものである。ここで検知した各種データ(衝撃・振動・温度)は、センサーヘッドに一体化されている演算ユニット(CPU)とデータ記録用メモリー、ならびに専用ソフト間の連携によって、予防保全へも転用が可能になる。検知した細かなストレス履歴を設備あるいは部品へのダメージと考えて蓄積・記録、そして分析すれば、一定量のストレスを蓄積したところで修理や交換といった「定常メンテナンス」を施す予防保全を行えるということである。

B-Safe Xの一機能である「スピンドル・チェックアップ」は以上の考え方に基づき、検知した振動・温度遍歴をヒストグラム化して蓄積する。さらに「スピンドル寿命」と呼ばれる累積ストレスパラメータへと変換することで、スピンドルが実際に受けたダメージを定量管理する。スピンドルが大きな振幅の振動を受けるか、あるいは適切な温度ではない環境(高すぎる、あるいは低すぎる)に置かれた場合、ストレスはより大きく、そして速く蓄積されると考えられる。左記のような高度な考え方を反映したフィードバックオプションも用意されているため、単純な累積稼働時間でのストレス管理から高度なストレス管理に至るまで、幅広い予防保全手法に対応している。

B-Safe_X予防保全スピンドルチェックアップ
B-Safe X予防保全「スピンドル・チェックアップ」機能画面

2.予知保全

非定常メンテナンスである予知保全機能の実現においても、前節で紹介したような常時監視型センサーとソフトウェアとの高度な統合が力を発揮する。進行性異常の急速な進展を可視化したい場合、正常状態からの差分をトレースするとわかりやすい。例えば生産ラインにおけるマシンのデイリーチェックレシピのような決まった動作を行うプログラムを走らせた状態下で、そのときの振動の「くせ」を日毎あるいは週毎といったように記録し都度比較していくことを考える。こうすると、その「くせ」から逸脱したような稼働が目立つようになってきた場合に、異常の予兆が生じ始めているとみなされる。

B-Safe Xではデイリーチェック予知保全機能を「フィンガープリント」という名称で提供する。これはマシンやスピンドル個体ごとに異なる動作の「くせ」を、個人ごとに異なるヒトの指紋になぞらえたものである。「チェックアップ」機能ではフォローしきれない日々の動作変化の度合い、健康な状態からの逸脱の度合いを「フィンガープリント」でフォローすることによって、保全のさらなる強化を図ることが可能になっている。

B-Safe_X予知保全フィンガープリント
B-Safe X予知保全「フィンガープリント」機能画面

おわりに

ドイツが主導する「インダストリー4.0」の実証が進んでいる欧州の最新技術を搭載したB-Safe Xシステムは、国を問わず生産ラインやマシン、スピンドルに対して生産効率の向上を提供できる。インダストリー4.0で重視されているデータの可視性・相互運用性を活かしたラインへの水平展開を視野に入れての、国内での導入の動きも見られはじめている。
マグネットやフランジなどのマウントオプションも充実するB-Safe Xは、いま稼働しているマシンに後からでも取付けることができ、PCと連携することでNCをチューニングすることなく独自にデータを蓄積・運用することが可能である。もちろん、Modbusプロトコルに準拠した標準化通信を応用し、NCにハードウェアレベルで完全に組込むことも可能。小さな頭脳をもつ高機能センサリングシステムのメリットを幅広いアプリケーションで享受できる。