Vacrodur

Source: ESO/José Francisco (josefrancisco.org)

アタカマの鋭い目

HYPROSTATIK®社製油静圧システムに浮かぶ8,000kgのカメラ

現在、世界最大の光学望遠鏡が、チリのアタカマ砂漠に設置されています。まもなく、このELT(Extremely Large Telescope)『超大型望遠鏡』で、セロ・アマゾン山頂から、遠く離れた惑星や銀河を探査する予定です。

ELTの最も重要な構成要素は、「赤外線カメラ」とその「冷却ユニット」で、重量は8,000kgを超えます。

この巨大な赤外線カメラ及び冷却ユニットは、ハイプロスタティック社の油静圧スイベルポケットに取り付けられ、地球の自転に対応して回っています。


※チリのアタカマ砂漠の、高さ約3,046mのセロ・アルマゾン山頂上に立つ巨大望遠鏡(ELT)。カメラは夜空を向き、深宇宙の鮮明な景色を私たちに届けてくれます。
なお、ELT建設のためのセロ・アルマゾン頂上の整地は、2015年に完了しました。

山頂のELT

異なる波長に対応する赤外線カメラ

この可視および赤外線スペクトルに対応する世界最大の望遠鏡は、従前の光学望遠鏡よりも、大幅に鮮明な宇宙の画像を映し出してくれます。(2025年頃稼動予定)

ELTの主鏡(反射鏡)は、厚さ5cmの六角形の鏡798枚で構成され、1,000平方メートルを超える大きさになります。
これはテニスコート約4面分の大きさで、現在の大型望遠鏡の15倍にもなります。

集光された光を解析するには、異なる波長範囲のカメラが必要です。ドイツとヨーロッパのいくつかの研究所は「Micado」という名のもと、ELT用カメラを研究しており、この天体望遠鏡から画像を取得します。

ELT内部の大型反射鏡

ELT内部の大型反射鏡1

ELT内部の大型反射鏡2

※5つの新型反射鏡に基づいた革新的な設計で、極めて高い画質を実現します。主鏡は約800のセグメントで構成され、それぞれ幅1.4m、厚さはわずか50mmです。光学設計は、チリのラ・シヤ天文台にある全てのESO望遠鏡のどの主鏡よりも大きいため、直径4.2メートルもの非常に大きな第2反射鏡を必要とします。

8トンのカメラユニットを保持する油静圧スイベルポケット

スイベルポケット

赤外線カメラは、過度の熱の影響から保護するために、冷却装置(クライオスタット)に囲まれています。

重量8,000kgのカメラユニットは、ハイプロスタティック製の油静圧スイベルポケットを介して直径150mmの軸受部に水平に設置されています。




※ハイプロスタティック社内の軸受テストスタンド上のスイベルポケット例

連続的に油供給量を制御

カメラユニットをしっかりと取り付けるために、静圧アキシアル軸とラジアル軸にスイベルポケットが使用されます。

各軸ポケットの側面に、8つの革新的な自動流量制御弁(PMコントローラ)が装着されています。

ポケットの負荷が増加するにつれて、PMコントローラは、連続的に油流量を増加させ、ポケットの負荷が低下する場合は、それに応じて油流量を減少させます。

このPMコントローラを使用すると、キャピラリーを備えた従来のコントローラと比較して、剛性が3〜6倍高くなります。

PMコントローラ
PMコントローラ例

※ステンレス鋼製のボディにアルミニウム・ブロンズを燃焼化学蒸着(CCVD)

8つのラジアル軸受スイベルポケットが回転軸を保持し、それによって滑らかな回転を可能にします。8つのPMコントローラもラジアル軸受スイベルポケットに取り付けられています。すべての軸およびラジアル軸受けのポケットは32~34bar(3.2~3.4MPa)のポンプ圧力に対応するよう設計されています。アキシアル軸受の最大許容軸力は 30kN です。 スイベルポケットの本体はステンレス鋼製で、本体上部はアルミニウム青銅でコートされています。

カメラは油膜上で滑らかに回転

油静圧マウントにより、軸受リングは自由に回転、または浮動できるため、カメラはギクシャクすることなく、ゆっくりと滑らかに回転できます。

静圧の原理により、大きな重量でも、簡単に水平方向に移動でき、また、外部からの振動を制振することができます。仮にHyprostatikの静圧システムが無かった場合、常にカメラを一定の位置に保つためには、精巧で高価な別のソリューションが必要になります。

例えば、別のプロジェクトで「4,000kgの重量を量る構造」を移動する際には、「シム」として知られる薄いプレートを使用することによって、均一な浮上隙間を確保し、一定の油膜を形成しています。
この手法の欠点は、個々のシムを交換するために回転運動を一時停止させる必要があり、また、必要な厚さのシムを製造するのに、ある程度リードタイムも必要です。これに対し、静圧軸受であれば、一時停止やリードタイムがなく、信頼性が大幅に向上し、耐久性が高くなります。

静圧軸受は摩耗しないため、数年間の長期使用に最適です。これは、機械が運転時間の影響を受けず、軸受は20年間同じ精度で動作し続けることを意味します。

ELTの場合、極めて高いラジアルおよびアキシアルの振れ精度が重要です。振れ幅は、赤外線カメラで撮影された画像に影響を与え、撮影対象物を誤った画像で表示する可能性があります。

ハイプロスタティック社の同様な油静圧軸受は、NASA所属のボーイング747搭載「ソフィア」望遠鏡に既に採用されており、18年間問題なく稼動しています。ヒマラヤでは、3.6mの反射鏡を備えた150トンのARIESシステムもハイプロスタティック社の油静圧システムで回転しています。

ハイプロスタティック・シェーンフェルト社

ハイプロスタティック・シェーンフェルト社は、油静圧システムのグローバル・テクノロジーリーダーです。

特許取得した製品は、様々な工作機械で使用されています。同社は1991年にロバート・シェーンフェルトによって設立され、現在約40人の従業員を擁します。また、DIN EN ISO 9001に準拠した認定を受けています。

革新的な流量制御弁技術に基づく製品群には、リードスクリュー、ガイドシューズ、テールストック、スピンドルベアリング、ロータリーテーブル等があり、各種サイズとデザインをご準備しております。

Hyprostatik本社
ハイプロスタティック・シェーンフェルト社
(ドイツ連邦共和国バーデン=ヴュルテンベルク州ゲッピンゲン)

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