概要

軸電圧(Shaft Voltage)は、モータやタービン、ポンプなどの回転体の軸上、または軸といずれかの部位との間に発生する電位差をいいます。
その発生原因は、モータの場合、固定子巻線の構造やモータのサイズによる仕様的なもの、インバータ制御によるもの、または、機械側で紙製品やフィルムなどを製造する機械のロールや、流体機器側で発生した静電気によるものなどが考えられます。

軸電圧が発生し、適切な対策がない場合、軸受内部などで放電を発生させたり、ノイズ源として電波干渉を起こしたり、様々な影響を及ぼすため、問題として扱われることがしばしばあります。ここではモータの軸電圧についてご説明したいと思います。

さまざまな軸電圧

モータの仕様・特性による軸電圧(商用周波数)

三相交流電動機は、固定子巻線のコイルへ、3つの相ごとに電流を流すことで回転磁束が形成され、回転子を回転させます。この固定子巻線のコイルで作られる磁束が三相で相殺されないと、電動機内部に磁束不平衡が生じ、その結果、モータの負荷側(機械やベルトなど動力伝達させる側)と反負荷側間に電位差が発生させることがあります。現代のモータにおいても、数百kW~数千kWとモータが大きいとこれが顕著になり、軸端間で電位差が発生します。これを伝統的に軸電圧と呼ぶことがあります。軸端間で電圧が発生するとモータ内部、或いはモータと機械側を介した閉回路ができる場合があり、インバータを使っていなくても、大形のモータでは、ベアリング損傷を引き起こすことがあります。

インバータ制御による軸電圧

誘導モータ(Induction Motor)をインバータ制御する場合や、インバータ制御が不可欠な永久磁石モータ(Permanent Magnet Motor)では、上述の軸電圧に加え、さらに3か所で電圧を発生させると言われています。そのうち、軸に関係する部分として、2つご紹介します。

インバータによる軸電圧

対地軸電圧

対地軸電圧はモータの軸とアース間、或いは軸と筐体間における電位差を言います。PWM制御(パルス幅変調)をすると、電圧をパルスで変動させ、そのパルス幅を変えることで疑似的な正弦波出力を生成します。その際、三相のパルスを合成すると中性点の電圧が0Vにならないことがあり電位変動することから、軸電位などと呼ばれることもあります。小形~大形までの多くのインバータモータは、この対地軸電圧が存在していると言っても過言ではありません。

軸端間電圧

高速スイッチングするインバータは、コイルから漏れ電流を発生させ、そこに磁束が形成されるため、モータ内部で磁気不平衡となることがあり、軸-軸間(軸端間)で電圧を生じる場合があります。負荷側と反負荷側で軸端間電圧が発生すると、軸受を介したループが形成され、軸をアースするだけでは軸電流を解決できないこともあります。この軸電流は、モータのサイズが大きいと顕著に表れることから、モータの枠番を基準に、片側の軸受で電流を遮断するよう、軸絶縁などの対策が必要になります。

軸電圧の許容値と油膜厚さ

前述の通り、軸電圧はベアリングで電食を発生させ、潤滑を劣化させ、早期損傷を招くことから、問題視されることが多々あります。ただ、インバータモータの健全性を考えるとき、軸電圧が高いから、それ自体が問題であるということではありません。

軸電圧の許容値

インバータモータにおいて、軸電圧の許容値を設けることは非常に難しいと言えます。それは軸電圧値が、電動機の仕様、軸電圧を測定する治具や方法、軸受や油膜の状況などにより、結果が変わるためです。
軸電圧値が大きくても、ベアリングに電流さえ流れなければ、電食などの症状を発生させることは考えられません。逆に軸電圧が極めて低くても、軸受インピーダンスが低い状態で、ベアリングに電流が流れれば、ベアリングや潤滑への影響は大きいことが想像できます。
このため、インバータモータにおいて、ベアリングやグリースなどの健全性を確認するためには、ベアリングに流れる電流を確認すべきです。しかし、実際にモータを運用している場面でこれを確認することは非現実的です。

軸受インピーダンスと油膜厚さ

軸電圧は軸受インピーダンスに影響を及ぼされます。その軸受インピーダンスに影響を及ぼす要素の1つが、油膜厚さです。油膜厚さは、回転数・粘度・温度・荷重などに影響を受けます。非常に低い回転数では転動体と内外輪は金属接触していることが多く、この場合の軸受インピーダンスは、電気抵抗R成分とみることができます。回転数・粘度・温度・荷重などの条件により、油膜が形成されてくると、軸受インピーダンスは電気抵抗Rに油膜が静電容量Cとして作用され、結果的に軸受インピーダンスが変化します。さらに、潤滑中に炭化成分や鉄粉の量が増えてくれば、これも軸受インピーダンスを変化させるため、この軸受に印加した電圧値も影響を受け変化します。

軸電圧の測定方法

軸電圧の測定方法

軸電圧はテスターを使って、実効値やピーク値などの軸電圧を確認する方法もありますが、前述の通り、電圧値は軸受の運転状況によって変化することもあり、一定の基準で軸受のリスクを評価することは困難です。
また軸受電流を測定することも実際のモータで実施することは極めて難しく、現実的ではないため、オシロスコープを使用したdV/dtの計測が現実的に最も簡単な方法です。

インバータモータを測定する際、仮にモータが無負荷で機械側で軸電圧が接地されることもなく、またモータのすべての軸受を軸絶縁してしまうと、モータの対地軸電圧を測定するとコモンモード電圧という波形が確認できることがあります。その時に電圧値を測定すると、非常に高い場合があります。しかし、コモンモード電圧がそのまま計測されるということは軸受に電流が流れていないことにもなります。したがって、軸電圧が高いから軸受に悪い影響を及ぼしている、ということではないわけです。

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