特に目立つ「高圧」「特別高圧」の電気代上昇

2023年5月8日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが、季節性インフルエンザと同じ「5類感染症」となり、経済活動もさらに活発になってきました。しかし、パンデミックからの経済急回復や戦争、脱炭素社会への取組みなど、さまざま複雑な要因により、輸入に頼る液化天然ガス(LNG)などの燃料調達費が値上がりし、大きな電力を必要とする製鉄所、製紙パルプ工場、石油化学プラントやセメント工場など、多くの工場において、電力費が収益を圧迫する事態となっています。

一時、約17[円/kWh]もの上昇も

東京電力管内の電気料金に相関する燃料費調整単価(図1)を過去3年間で見ると、'21年1月におよそ-5円を底に、今年始めには、およそ17円ほど価格上昇し、ここのところ低下傾向にはありますが、'21年1月時点の単価と比べると依然、高い状況にあると言えます。
また、高圧と特別高圧の電気単価は、今年1月時点において過去24か月間で、それぞれ2.13倍、2.45倍というデータもあり*1、電気代の抑制は喫緊の課題と言っても過言ではありません。(*1 出典:新電力ネット「全国の電気料金単価」)

そこで、性能やメンテナンスの改善と同時に省エネにも寄与できるソリューションを紹介します。

上昇する高圧・特別高圧の電気代
図1 燃料費調整単価(出典:東京電力エナジーパートナー)

1.オイルシール1つあたり平均 147[W]消費*2

オイルシールの電力損失は意外に大きい

トルクによる電力消費
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オイルシールは軸にシールリップを圧接させるため、回転数や軸径、軸表面の状態などにより、無視できない電力損失があります。一般的なシングルリップのオイルシールでは、平均 147[W]程度の電力消費があるというデータもあります。
(*2 出典:Labyrinth bearing seals can offer cost advantage (PLANT ENGINEERING STAFF JULY 30, 2004) By David Orlowski, Inpro/Seal Co., Rock Island, IL)

オフィスや事務所で多く見かける40形・直管形蛍光灯の消費電力はおよそ40[W]ですが、離席時や昼休みなどに消灯する取組みや、蛍光灯をLEDに置き換える取組みはとても大切且つ効果的である一方、「潤滑を漏らさない」・「異物を入れない」といった機械的役割を果たすシールを見直すことで、さらに多くの無駄な消費電力を抑制できる場合があります。

オイルシール1つ147[W](0.147[kW])の電力消費とし、365日24時間運転として単純計算すると、上述の燃料調整費+17[円/kWh]が、その値上げ分だけでオイルシール1つ年間21,981円も電気代が増える計算になります。当然、値上げ分だけでこの金額ですので、単純に電気代としては、もっと大きな数字になります。

摩擦のないラビリンスシール

「非接触シール」に分類されるラビリンスシールは、シールにおける接触(摺動)が起こらぬように、シール形状や内部寸法を設計し管理します。そのため、シールにおける摺動トルクは原則、発生しません。また機械摩耗がないため非常に長い間、メンテナンスが不要であることや、機械側の摩耗(シールリップによる軸摩耗)がないことも大きな利点です。

ポンプやギヤボックスや軸受箱など、オイルシールが特に多く使用されるアプリケーションに導入することで、条件によっては年間数百万円を超える電気代や修繕費、ダウンタイムを抑制することも期待できます。過去の記事「オイルシール ー メンテナンスフリー化で設備の信頼性を向上させる」

2.消費電力を大幅に下げるインバータ制御

インバータは、省エネの強い味方

国内普及台数がおよそ1億台と言われる、三相誘導電動機は、ポンプや圧縮機、送風機などさまざまな機械で使用されます。ポンプや送風機は商用電源で運転する場合、その流量(風量)はダンパ(バルブ)により制御されることが多いですが、この場合、流量を下げるとダンパ(バルブ)で大きな損失が発生します。

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インバータ制御を導入するメリット
インバータ制御の場合、電動機の回転数を制御することができるため、ダンパ(バルブ)に比べ大きく消費エネルギーを下げることが期待できます。
個々の条件にもよりますが、ダンパ(バルブ)制御をインバータ制御に変えた場合の省エネ効果は約45%ほどとの試算*3もあります。
(*3 出典:「INVERTER 2021~2022持続可能な社会に貢献するインバータ (一般社団法人日本電機工業会) ] )

インバータ導入時に注意すべきポイント
三相誘導電動機にインバータを導入する場合や、必ずインバータ制御が必要となる永久磁石モータ(三相同期電動機)を導入する際には、導入後のメンテナンスや故障頻度に直結する、知っておくべき注意点があります。特に注意したいのが、電食と呼ばれる軸受損傷やグリース劣化です。(過去の記事「インバータモータの信頼性を高める適切な購入仕様」

3.ゴム製Vベルトの消費電力

ゴム製Vベルトはホームセンターなどでも入手できるほど入手性に優れ、送風機や空調機など、さまざまな機械で、動力伝達や回転数調整のために使用されています。

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ゴム製Vベルトの課題

ゴムの曲げ損失・滑り損失・経年劣化と性能低下

ゴム製Vベルトは一般的に、使用環境による劣化や定常的な伸びにより張力が徐々に低下します。それによりプーリー間では滑りが発生し、振動・振幅も増加するため、結果的にベルト・プーリーの摩耗・軸受損傷を引き起こし、多くの粉塵が発生します。

ベルトがプーリーに巻き込まれる際に生じる曲げ損失や、プーリーとの間で滑ることで発生する滑り損失によって、モータから機械へ動力伝達するためのVベルトで大きなロスが発生している場合があるのです。

リンク式Vベルト(合成樹脂製)に置き換えるメリット

「Vベルト」と言えば、ゴム製でエンドレス(有効ピッチ周長さから選択するもの)が"常識"ですが、リンク式Vベルトに置き換えることで、消費電力を下げられたという事例もあります。

リンク式のVベルトの場合、それぞれのリンクが柔軟に曲がる特徴を有しており、曲げ損失が小さくなります。また、結果としてバタつきも小さくなります。(【動画】導入事例|鉱山プラント|ゴム製VベルトをFenner Drive社リンク式ベルトへ交換| Cタイプ x 4本掛け|

例えば、エア・ハンドリング・ユニット(AHU:Air Handling Unit)では、ゴム製Vベルトから、合成樹脂製のリンク式Vベルトに交換したことにより、平均で31.7kWの省エネが認められたという事例があります。(過去の記事「Vベルトはもう古い!? リンク式樹脂ベルトのご提案)」

費用対効果を検証する

ReturnOnInvestment
費用対効果の算出例

喫緊の課題「電気代低減」のために、機械部品やメンテナンス手法を見つめ直すことはとても重要な時代になったと言えるかもしれません。

機械部品は日夜、機械の信頼性・ダウンタイムの最小化・高機能化などの役割を果たしていますが、見方を変えると省エネにつながる場合もあり、SDGsの取組みや電気料金の値上げなどで、ご相談頂く機会も増えてきました。

お客様の条件にあった条件で、製品を導入した際に期待できる費用対効果の想定金額の算出などもご提案できますので、お気軽にご相談ください。

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